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2018.02.18

菅野覚明著『吉本隆明―詩人の叡智』(講談社学術文庫)を読む

2月18日(日)

この本では、吉本隆明という思想家の本質は詩人であり、その思想の本質は詩であるということから出発して、初期の詩の分析から後の吉本思想の重要な概念である自己表出、指示表出、共同幻想、沈黙の有意味性といった概念がいかに生まれてきたかを詳しく論じている。

吉本は、敗戦後に社会の価値観が急激に転換する中で、青春期に詩作を続けながら試行錯誤して確立したつもりだった自己とはいったい何だったのかという精神的な危機に襲われる。だが、尊敬していた詩人・文学者・知識人たちは新しい価値観にあっさりと乗り換え、大衆も過去を忘れたように今の生活に埋没していく。吉本はもはや拠り所となるものが自身の詩だけであり、詩を書くという行為の中にしかないと思うようになる。

そうやって数年の苦闘の末に書き上げたものが『固有時との対話』である。この詩の分析にこの本では1章を充てて詳細に論じている。この詩は詩でありながら自身の詩についての詩論にもなっていて、この中に後の吉本思想のすべてが詰まっていると著者は言う。

わたしもその詩を読んでみたのだが、正直、何を書いているのかさっぱり理解できなかった。それはまるで吉本隆明という前衛芸術家の一人舞台を観ているような感覚だった。何を言っているのかセリフはまったく理解できないのだが、でも今、目の前で何かすごいことが起こっているといった感じだった。

この詩以降、吉本は詩作以外に文芸批評、政治評論の分野でも精力的に著作を発表し発言を続け、いつしか戦後思想の巨人とまで評されるようになる。吉本の思想はわかりにくいのになぜか多くの人を惹きつけてきた。わたしもその一人である。その魅力が自身の詩を源泉としたものだと考えると納得がいく。

(2月4日読了)


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