和田彩花著『美術でめぐる日本再発見』(オデッセー出版)を読む
8月24日(水)
副題は「浮世絵・日本画から仏像まで」。この本は著者の2冊目の美術本である。アイドルであり美術史専攻の学生でもある著者は、メディアプロデューサーの櫻井孝昌という理解者と出会い、ネット上で西洋美術についての連載を始め、その最初の成果は『乙女の絵画案内』という本として出版された。それは現役アイドルである著者ならではの視点での西洋絵画案内だった。
この2冊目の本も櫻井氏のプロデュースでまずネットでの連載が始まり終了後に本としてまとめられるはずだった。だが、連載が終わってから間もなく櫻井氏が鉄道事故で亡くなってしまう。昨年の12月4日未明のことだった。ファンの間では、彼の死を悼むと共に、はたして本の出版はあるのかという心配の声が上がったが、本は無事出版された。
出版されるまでの経緯がどういうものだったのかは明らかにされていない。だが、一冊目と異なり出版元はアイドル本や写真集を多く出している会社だった。そのせいか、著者の文以外に写真も多く、フォトブックエッセイのような形になっている。はたしてこれが櫻井氏の望んだ形だったのかは今ではわからないが、プロデューサーとして彼の名は本に記されてしまった。
内容は、アイドルであり美術史専攻の学生らしい独特の視線での浮世絵や日本画、仏像の解説になっている。特に注目すべきは浮世絵解説の独自性で、そこから浮かび上がるのは江戸時代の浮世絵文化と現代のアイドル文化との共通性であり、江戸時代の女の子のかわいさである。
明治時代になり浮世絵とそれを担った江戸文化は廃れて文明開化の時代が来る。著者は浮世絵を通して、文明開化の華やかさの影で失われた文化の豊かさに気づく。そしてそれが西洋で発見されて印象派絵画へとつながり、その絵画に自分が出会ってしまった不思議さに思いをはせるのである。
(7月21日読了)
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