小保方晴子著『あの日』(講談社)を読む
6月8日(水)
著者は2014年1月のSTAP細胞の発表で一躍時の人となり、その後、論文のねつ造が指摘されて、最終的には論文の撤回と理化学研究所からの辞職を余儀なくされ、表舞台から消えていった。この本は、いったいどうしてこんなことになったのかを著者自身が自らの学生時代や研究生活を振り返りながら、書き記していったものである。不安定な精神状態の中での執筆であることは窺えるが、少なくともごまかしたり言い訳したりする意図はないという印象を受けた。
著者は研究者の卵としてかなり優秀だったようで、後にSTAP現象と呼ばれる、刺激によって細胞が初期化される現象もハーバード大学の医学部での研究生活の中で発見している。
その現象の生物学的意義を探求したいというのが著者の志であったが、一流誌に論文を載せる努力を続ける中で何人もの研究者と関わることとなり、研究がおかしな方向に進んでいく。その結果、iPS細胞を超える世紀の大発見という形で世に発表されることとなったのである。
著者を信じる限りでは、STAP現象と呼ばれる生命現象はあるものと思われる。だが、著者の関わっていない、特殊な手技が必要とされるSTAP幹細胞からキメラマウスを作り出す過程に謎が残る。STAP幹細胞だったはずのものがなぜES細胞とすり替わっていたのか。著者ではなく誰かが意図的にやったのだとしたら誰がしたことなのか。著者が特定の個人への強い疑いを抱いているのは確かである。
いずれこの事件全体の謎が解ける日が来てもらいたいものである。
(5月4日読了)
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