レヴィ=ストロース著、川田順造訳『悲しき熱帯Ⅰ』(中公クラシックス)を読む
3月24日(火)
昨年の12月7日から読み始め、3月18日に読み終えた。一冊の本を読むのにこれだけかかったのは久しぶりである。ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』以来か。私にとって読むのに時間のかかる本に共通するのは、読み終えてからもよく理解できた気がしないことだろう。まるで山の暗い森の中を延々と登り続けているような感じの読書であった。しかもこの本はまだⅡに続くのである。
『悲しき熱帯』は民族学者であるレヴィ=ストロースの出発点となった、南米ブラジルでの民族調査の経験を中心として書かれた紀行文であり民族誌でありエッセイである。ただ、書かれたのはブラジルを去って15年後のことで、それまでの様々な経験が交錯して描かれ、晦渋な文体もあって、うっかりすると今どの時代のどこの描写なのかわからなくなってしまう。ある時はパリの博物館の一室かと思うと、ある時はアメリカへ亡命する途中の船の上、ある時は北米での民族調査のできごとかと思うと、インドでの経験に飛んでいる。
著者はあまり読者のことは考えないで、心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書き綴ったように思える。ブラジルに到着するのはようやく150ページを過ぎた辺りからである。そこからも描かれるのはブラジルのことだけではない。具体的に民族誌の体裁を取るのは250ページを過ぎてからである。
著者はこの本を「私は旅や探検家が嫌いだ」という一文で始めている。そう思うに至った旅の面倒くささを読者にも追体験させたいかのように、中々思うような所にたどりついてくれない。だが、著者のこの独特な思考や言い回しには、後に構造主義と呼ばれる、人類を時代や民族を超えた一つの構造として捉えようという思想への意志が確かに感じられる。面倒くさくはあるが、高濃度の思考と知識と情熱とが詰まった魅力に満ちた本であることはまちがいない。
(3月18日読了)
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