渡邊英徳著『データを紡いで社会につなぐ』(講談社現代新書2234)を読む
7月9日(水)
副題は「デジタルアーカイブのつくり方」である。アーカイブは元々は公文書の保管所という意味だが、では、デジタルアーカイブとは何なのだろうか。また、副題ではないが、表紙には「いま、データで何ができるのか?」との問いかけがある。著者の肩書は「情報アーキテクト」である。アーキテクトは建築家と訳すことができるが、では、情報アーキテクトとは何をする職業なのだろうか。
著者は現代をビッグデータとオープンデータの時代と捉える。その功罪や危険性を論じつつ、その可能性の方に希望を見出す。その実践として、数々のデジタルアーカイブを作ってきた。デジタルアーカイブとはネット上のバーチャルな世界、具体的にはグーグルアースをインターフェイスとして、その中に、記憶としてのデータを保管する試みである。著者たちは、デジタルアーカイブとして「ナガサキ・アーカイブ」をまず作成する。これは長崎の原爆の記憶をネット上に保管する仕組みであった。つづいて「ヒロシマ・アーカイブ」で広島の原爆の記憶を、「東日本大震災アーカイブ」で震災の記憶をデジタルアーカイブ化してきた。
著者はその過程で、記憶のデジタル化には、地道にデータを集める人たちの情熱が必要だということに気づく。デジタル化はあくまでも手段であって、記憶の継承にはその土地に住む人たちの継承の意志が必要なのだ。そしてその意志がある限りにおいて、デジタルアーカイブは大きな力となる。
本書を読むと、ビッグデータとオープンデータは、社会の新しい形を作ることに大いに活用すべきものであることがわかる。著者のいう情報アーキテクトとは、このようにデータを紡いで社会につなぐことを仕事としている人と言うことができる。
(6月30日読了)
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