« 2013年8月 | トップページ | 2013年10月 »

2013.09.24

田山花袋著『東京震災記』(河出文庫)を読む

9月24日(火)

アニメ『風立ちぬ』で関東大震災が描かれていたため、参考になる本を探したらこの本がヒットしたので読んでみた。田山花袋は明治の作家と思っていたけど、どうやら大正時代にも執筆を続けていたようだ。震災当時は51歳だった。

花袋は震災の当時、その頃は東京西部の郊外だった代々木に住んでいた。地震の揺れは大きかったが家の倒壊や火事からは免れた。そのため花袋は、東部の本所の知り合いの安否を確認したいということもあって、翌日にはもう被害の大きい東部へと歩いて見に行こうと試みる。

この本はそうやって作家・花袋が実際に歩いて見聞きしたことの記録を中心にまとめられたものである。人間をそのありのままに描くという自然主義派の作家だけにその描写は迫真的である。その時、東京でいったい何が起こったのか。そこで人々はどのように行動し、どのように火災に巻き込まれていったのかが具体的に描かれる。現場には焼け焦げた死体が無数にあり、日露戦争に従軍したこともある花袋にとっても、正視に堪えないところがあった。不穏な空気を感じ風説も耳にする。花袋は自分の感じたことも含めてそれを描写する。

また、この本では震災当時の東京の風景も描かれる。東京がどんな街だったのか、その景色が目の前に広がるような描写である。また花袋の過ごした明治10年代からの東京の変遷も描かれる。東京が江戸時代の名残をとどめた時代から近代国家の首都として発展してきた様を花袋は思い出す。

花袋はまた未来をも幻視する。もし東京が飛行機で襲われたらどうなるのかと考える。東京に向かって数十機の飛行機が爆弾を積んで飛んでくる様を想像する。残念ながら、その幻視は22年後に現実化するわけだが。

江戸時代の安政の地震でも火事が起こって多くの死者が出た。その対策はいつしか忘れ去られ、再び地震が起こって人々はまた火事で死んでいった。いったい人間はどうしてこうも忘れっぽいのかと花袋は思う。

と同時に、花袋はこの機会に東京が一国の首都にふさわしい、すばらしい都市として復興してほしいとも願う。その願いには一種の社会進化論のような考えも反映されている。

当時の店の名や地名、作家独特の言い回しなどわからないこともあったが、ネットで検索したらほぼ判明した。それを除くと平易な文体で書かれてある。震災のことだけでなく、東京という街をより重層的に理解するためにも読むべき一冊と言えるだろう。

(9月21日読了)

2013.09.07

堀辰雄著『風立ちぬ・美しい村』(新潮文庫)を読む

9月7日(土)

「美しい村」と「風立ちぬ」。この2つの小説を読んだ後にアニメ『風立ちぬ』を見に行った。このアニメはすでに7月31日に見ていたのだが、細部でよくわからない所があったため、とりあえず堀越二郎と堀辰雄の本を読んでからまた見てみようと2冊の本を買ったのだった。

堀越二郎の本についての感想は先に述べたので、次は堀辰雄である。この2つの小説を読み終えた印象は、一言で言うと、雲のようにふわふわしているということである。そういう点ではアニメはこの空気感を取り入れているのかもしれない。

「美しい村」は重い病の後に療養をかねて初夏の軽井沢にやってきた男が主人公。病み上がりの重い心を抱えたまま、別荘のある森の中を歩き回る記述が前半にあり、後半には、その地で絵を描く少女と出会い、親密さを深めていく様子が描かれる。本当に現実にあったことのような書かれ方をしている。小説の構成はバッハの小フーガにヒントを得たそうだが、わたしにはよくわからなかった。

「風立ちぬ」はその少女と思われる女性との軽井沢での生活の続き、そしてその女性が重い結核にかかり、恋人の私の付き添いで山の中の療養所で過ごす日々が描かれる。「美しい村」にあったような下世話な現実感はなくなり、より洗練された詩的でかつ哲学的な文章になっている。

「風立ちぬ、いざ生きめやも」は私の口からふいに出てきた詩句として出てくる。だがこの詩句の意味することと小説とのつながりはよくわからない。ただ作中で主人公は「皆がもう終わったと思っているところから始まっているようなこの生の愉しさ」を小説に書きたいと言っている。この作品がそういう作品になっているとは思えないが、死に向かいつつある生の相をうまく描けているとは思う。

堀辰雄はフランス文学の新しい話題作を熱心に読み、その最新の手法を積極的に自身の小説に取り入れたと言われている。わかっている人が読めば、誰の作品のどんな文章かわかるような書き方で、そういう引用による作品の作り方から堀辰雄の作品を今のサブカルの源流の一つと見る向きもある。

武器マニアでアニメ職人の宮崎駿が、堀越二郎だけでなく、堀辰雄にも敬意を表して自身の最後の長編アニメ作品の中核に据えたのには、そういう理由もあるのかもしれない。

(8月29日読了)


« 2013年8月 | トップページ | 2013年10月 »

フォト
2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

読み助の本棚

  • 読み助の本棚
    ブクログ