永田和宏著『タンパク質の一生 ―生命活動の舞台裏』(岩波新書)を読む
3月18日(月)
生物の細胞レベルでの生命活動の中から、特にタンパク質に焦点を当て、その誕生、成長から輸送、分解までのいわばその一生についての最新の研究を紹介した本である。かなり専門的な内容が盛り込まれていて読み応えがあるが、著者の巧みな比喩と文章力によって、誰でも読める読み物になっている。
私は30年くらい前に大学で生物学を勉強したのだが、タンパク質はDNAの遺伝情報を基にアミノ酸が配列されて、それがつなぎ合わされてできるもので、一旦アミノ酸がつながれば、あとは分子的な力で自然に立体的な形になるものと思っていた。
ところがこの本を読むと、体内環境下ではタンパク質はそう簡単にはできあがらないものらしい。それを助けるものが分子シャペロンと呼ばれるタンパク質である。シャペロンとは介添え役を意味する。社交界にデビューする若いレディにドレスを着せ、舞踏会に連れてゆき、自分は控室で待機している女性をフランス語でシャペロンと呼ぶところに由来する。何ともしゃれた名前である。
著者は分子シャペロンの働きと体内でのタンパク質の品質管理について主に研究しており、この本でもその部分についての説明がくわしい。そこがもっとも魅力的な部分でもある。読み応えはあるけれど、その分、生き物の精巧でかつ大雑把でもある仕組みを具体的に知ることができる。
生命活動とは1つ解明されるとそこからいくつもの新しい謎が生み出される不可思議なものである。それはタンパク質1つ取っても同じであることをこの本は教えてくれる。
(3月17日読了)
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