内田樹・光岡英稔(対談)『荒天の武学』(集英社新書)を読む
1月11日(金)
内田氏は1950年生まれの神戸女学院大学の名誉教授で、光岡氏は1972年生まれの武術家である。内田氏はレヴィナスを師と仰ぐ思想家として有名だけど、合気道七段の達人でもある。そのため、この本の基本は武術家同士による武術論となっており、その展開として、荒天の時代に人はいかに生き抜くべきかという思想の書にもなっている。
どちらも武術家であるとは言え、特に光岡氏の言葉の大半は武術家としての身体感覚を言語化したものであり、わたしのような未経験者には中々理解しがたいものがあった。しかし、不思議なことにその理解しがたい言葉の方にむしろ重みがあった。
反対にわたしにも理解できる部分の言葉はやや軽く感じた。氏の場合、あくまでも武術家であって、その身体感覚の言語化には信頼がおけるのだが、氏が頭で考えることは、まあ、そうとも言えるよなとしか思えなかった。
内田氏の場合は、武術家であり思想家でもあるわけで、今回も実に刺激に満ちた言葉を聞くことができた。だが氏の言葉はそのまま氏の最近の言動を批判する言葉にもなりうるのではないか。
この本はあくまでも対談をまとめたものであり、思想の首尾一貫性よりも対話の楽しさや言葉の鋭さを味わうものなのだろう。そういう意味ではいい対談本だったと思う。それに50歳を過ぎてそろそろ何か武道を始めてみたいと思っていたのだが、この本を読んでますますその感を強くした。
(1月6日読了)
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