荻上チキ著『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』(幻冬舎新書)を読む
12月19日(水)
副題は、絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想、とある。著者はこの本で、この国の未来をただ悲観したり、政治不信のあまり政治への関心をなくしたりしている人たちに向けて、ダメダメばかり言っていないで、もっと自分から提案して自分の周りから社会を変えていく努力をしてはどうかと呼びかけている。
著者は1981年生まれの若手の評論家であるが、20代から社会問題に関心を持ち、その解決のために様々な試みを続けてきた人で、社会運動家の面も持っている。バランス感覚の優れた人で一方的な議論はあまりしないし、人の議論を交通整理することに長けている。党派性から比較的自由という点でもこの国には珍しいタイプの知識人である。
この本では、今この国はどんな状態にあり、どんな経緯でそうなったのか、その解決のためにどんな議論がなされてきたか、これから私達はどうすればいいのかについての著者の考えが明確に述べられており、たとえ著者とは考えの違う人でも、自分の考えをよりハッキリさせるために読んだ方がいい。
著者の根本的な考えは、この国は、見捨てられる人が誰もいない、包摂された社会を目指すべきであるということである。そのためには行政だけが動いて国民はただ文句を言っていればいいということではなく、わたしたち国民も社会をよくするために自分で解決案を出して実行に移すこと、ボランティアや社会的起業家などの新しい公共の必要性を自覚し、支援していくことが求められる。
また、近年になってTwitterやFacebookのようなブログやSNSが発展し、わたしたちは容易に自分の考えを発信し、人の考えを受信できるようになった。ネット上で有志が呼びかけただけで、再稼働反対デモに数万人が集まったのもつい数ヶ月前のことである。わたしたちは今までより政治に参加しやすい環境にいる。Twitterで公式RTをすることがそのまま政治参加につながることもある。そのような形で仕事や遊びの合間に政治に参加することがあってもいいと著者は言う。
わたしはこの本を読み終えてから衆議院議員の総選挙と都知事選の投票に行った。その結果についてはここで特に言うことはないけれど、ただ、総選挙の投票率が戦後最低だったのは残念だった。『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』という、この本のタイトルに込められた著者の気持ちを少しだけ理解できたような気がした。
(12月16日読了)
« 春日太一著『仁義なき日本沈没 東宝vs.東映の戦後サバイバル』(新潮新書)を読む | トップページ | 再掲・エチオピアで過ごした20日間 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 読んだ本39冊(2019.07.15)
- カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳『日の名残り』(中公文庫、1994年)を読む(2018.08.10)
- カズオ・イシグロ著、小野寺健訳『遠い山なみの光』(ハヤカワepi文庫,2001)を読む(2018.06.01)
- 読んだ本3冊(2018.04.19)
- 菅野覚明著『吉本隆明―詩人の叡智』(講談社学術文庫)を読む(2018.02.18)
« 春日太一著『仁義なき日本沈没 東宝vs.東映の戦後サバイバル』(新潮新書)を読む | トップページ | 再掲・エチオピアで過ごした20日間 »
コメント