坂口恭平著『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)を読む
9月20日(木)
親から自立して都会で一人暮らしを始めた時にまず実感したのは、この生活を続けるためにはお金が必要だということだった。お金を得るためには仕事が必要で、だから職を得て働くことが必要だった。それは当然のことだったのだが、その生活が何だかしんどいものであったことも確かだ。働かなくてもお金がもらえればいいのにと思ったこともあったけど、そのためには宝くじで一等3億円に当たるか、病気か事故で仕事ができなくなり、生活保護をもらうくらいしか方法がないように思えた。
ホームレスの存在は知っていた。だが、わたしにとって彼らは貧困問題として解決されるべき存在であった。ルンペンプロレタリアート論という革命論もかつて聞いたことがあるけど、その理論によるとルンペンは革命の主体となって戦い、ルンペンの生活を脱しなければならなかった。いずれも彼らはそのままでいてはいけない存在なのであった。
この本のすごい所は、お金がないと生きていけないというわたしたちの常識になっている考え方を変えるために、人は収入が0円でも都会で生きていけるということを具体的に示した所だろう。著者はその具体例を路上生活者に求める。路上生活者の生活をよく見ると、都会の幸や制度や人々の善意を巧みに利用して、川辺や公園に自分が生きていけるだけの家を確保し、0円に限りなく近い生活を送っている。彼らは自分たちの生き方の創造者なのであり、そのままで自足した存在なのである。
お金がなくても生きていけるというのは、お金を得るために働いているわたしたちにとって一つの希望になる。別に路上で暮らす必要はない。ただ、わたしたちは、今のお金にしばられた生き方しかないとあきらめないで、もっと自分の生き方を自分なりに創造するべきなのだ。そのためには、わたしたちも都市型狩猟採集民である路上生活者たちのように自らの感覚を研ぎ澄まさなくてはならないのである。
(9月15日読了)
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