野島伸司著『ウサニ』(小学館文庫)を読む
8月16日(木)
ヘレン・E・フィッシャーの『愛はなぜ終わるのか』の、男女の愛は4年で終わるという説が話題になったのはもう20年近く前のことである。その説によると、人間は結婚して4年で生物学的に愛の情動を失って、あとは惰性や打算など他の要因で結婚生活を続けており、自分の気持ちに素直に従っている人たちは不倫や離婚をしているのだという。
また、男は生物学的に浮気をする生き物であるという説がある。男は自分の遺伝子をできるだけ多くの女にばら撒くよう遺伝的に組み込まれている。だからすべての男は浮気をするようにできているのだという。
さらに00年代になって現代思想の分野で唱えられるようになった「動物化するポストモダン」。人間は文明化すればするほど動物化していくという逆説的な説である。
著者は作家的想像力でこの3つの説を結びつけ、太宰の『人間失格』の主人公をさらに甘ったるくしたような青年の一人語りによる奇妙なラブストーリーを作りだした。
元々の説が3つともトンデモ説であり、その上に物語は若い孤独な男とウサギ似のぬいぐるみに入ったアマゾンヘビイチゴの妖精とのファンタジーなラブストーリーなものだから、全編その男の珍説を延々と聞かされることになり、大の大人が読むにはかなり苦痛な内容である。
ただ、この廃人のような主人公が最後に辿りついた「やっぱり浮気はいけない」という結論には納得できる。というか男の大半は浮気などしないし、生物学的に浮気するようにもできていない。浮気をする男はダメ人間というだけの話で、なのに変な言い訳を考えるからおかしなことになっているというだけのことである。
この物語は著者自身の脚本によって舞台化され、今、テアトル銀座で上演中である。わたしはアイドルの真野恵里菜のファンであり、この舞台にウサニ役(平野綾とのWキャスト)で出ているということで見に行く予定でいる。はたしてどういう舞台になっているのか、楽しみにはしている。
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