呉智英著『真実の「名古屋論」』(人間社)を読む
7月21日(土)
副題はトンデモ名古屋論を撃つで、まずは名古屋について言われている俗論を、ある「県民性評論家」を俎上に載せて徹底的に批判するところから始まる。その後、名古屋、尾張の文化について論じるという構成になっている。
著者はまず県民性というもの自体が俗論であるとしてしりぞける。その批判の切り口はあいかわらず鋭く、著者をよく知っている人なら、先生やってますなという感じである。だが、批判の相手が「県民性評論家」という珍妙な肩書の無名の学者もどきであるため、何もそこまでという気もしてくる。呉智英は30代の頃に著名な知識人を叩くことで名を揚げたのだが、60代になっても同じようなことをしかも小物相手にやっているというのはどうなのだろう。
また、後半の名古屋、尾張文化論も、確かに知らないことだらけで民俗学や尾張名古屋の郷土史に興味のある人にはおもしろいと思うのだけど、反面その程度のことはどこの地方にもあるんじゃないかとも思える。世界的な思想や宗教とのつながりを強調してはいるけど、それだってどこの地方でも深く掘れば出てくるはずである。
全体として批判としても論としても呉智英にしては何とも物足りない本になっている。残念。
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