梶尾真治著『ゆきずりエマノン』(徳間書店)を読む
5月31日(火)
熊本在住のSF作家である梶尾真治が1979年から書き継いでいるのが、エマノンをヒロインとしたSF短編である。エマノンは地球の全歴史の記憶を持っているが、外見は若くて背の高いスレンダーな美人である。彼女はその特殊能力の故に、様々な不可思議な事件に関わってゆく。
この本には、そうしたエマノン・シリーズのうち2006年から2010年に書かれた短編4作が収められている。「おもいでレガシー」、「ぬばたまガーディアン」、「いにしえウィアム」、「あさやけエクソダス」の4作である。
読んでみて、同じ時期に書かれた長編とアイディアが似ている作品もあって、その時期の著者の経験がエマノンに凝集し、それが核となって長編が書かれるのではと推測した。著者にとってエマノンは着想の源なのかもしれない。
ではエマノンとは何者なのだろう。EMANONを逆に読むとNO NAMEとなるように、エマノンは名付けられない者である。エマノンはある時は地球の意志のようでもあり、ある時は遺伝子の意志のようでもある。エマノンの役割は作品ごとに変わってゆく。その自在さゆえにそこから様々な物語が生まれる。エマノンとはそういう存在なのである。
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