齋藤智裕著『KAGEROU』(ポプラ社)を読む
12月26日(日)
俳優の水嶋ヒロが俳優を辞めて書いた小説。水嶋はこの初めての小説で、賞金2千万円のポプラ社小説大賞に本名で応募し、みごとに大賞を受賞したことで話題になった。しかも彼はその賞金を辞退したのである。
そのように話題先行の本であったため、読む前からいろいろな批評が目に入った。そのほとんどは作品の出来をけなすものであり、他にも週刊誌で賞が出来レースであったという記事が載ったりしていた。でも、だからこそ自分で読む必要があった。
読んだ感想は、まず、おもしろかったということである。設定、ストーリー、仕掛けのどれもがうまくできていて、命という重いテーマを扱いながら、どこかユーモラスな物語であった。
文章自体はまだ拙く、作品として粗削りな感はあったがとにかく読ませる。新人でここまで楽しく読める作品は珍しいから、それだけでも賞を取るだけの価値はあると言えるだろう。
また、著者の命についてのメッセージがよく伝わる物語であった。命を大切にというメッセージは直接に言うと陳腐であるが、このように物語にすると、やっぱり大切だよなと素直に思える。主人公の「『死にたい』って、裏を返せば『生きたい』ってことなんだよね」(p.151)という言葉は、この作品の中心のメッセージだろう。生きたいと死にたい、一見正反対の感情だが、どちらも人間がよりよく生きられるように、人間に与えられた感情なのである。そしてその大切な命も、愛する人のために捨てるなら惜しくないと思えるのも人間なのである。つながりとしての命についても考えさせられる機会となった。
(12月24日読了)
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