いしかわじゅん著『ファイアーキング・カフェ』(光文社)を読む
10月16日(土)
漫画家いしかわじゅんの書いた短編小説の連作集。いしかわじゅんは多才な人で、漫画だけでなく評論やエッセイ、小説などの著作も多いが、あくまでも漫画家である。
とはいえ、わたしは氏の小説を読んだのはこの本が初めてである。舞台は沖縄の那覇、全部で6つの短編が収められている。表題は最初の短編のタイトルであり、「ファイアーキング」とは、表紙にもあるアメリカの陶器のブランドのことである。
主人公はそれぞれ異なる。男であることもあり女であることもある。しかしすべて本土出身の人間である。この6人はいずれも本土で何らかの形で居場所をなくし沖縄に流れてくる。しかし沖縄でも落ち着かない気持ちを抱えて生きている。彼らはある短編では主人公であり、他の短編ではわき役や背景のような人物として現れる。
この連作を通じて見えてくるのは、滞在数年くらいの本土の人間の目から見た那覇の風土であり沖縄の人間のありようである。そこはパラダイスでもなければ地獄でもない。そこでも人間が生きているというだけのことだ。ただ、最後の「新しい場所」では、沖縄の女が本土に旅立ち、本土の女が沖縄で居場所を見つける決意をする。居場所を見つけるとは、そこにいる決意をすることなのだ。
とまとめようものなら、いしかわじゅんに「ちがうよ」と一蹴されそうではあるが。
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