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2010.10.25

梶尾真治著『アイスマン。ゆれる』(光文社文庫)を読む

10月25日(月)

この本は、2008年3月に刊行された作品が文庫化されたものである。文庫としては今月に出たばかりである。著者は熊本在住の作家・梶尾真治で、わたしにとって梶尾作品を読むのはこれで3作目である。

この作品は現代の熊本市を舞台にしたSFファンタジーである。熊本でSFというのがこの著者のこだわりなのか、他の地域を舞台にした作品はまだ読んだことがない。主人公は30代前半のOL。腎臓透析を受ける母の世話をしながら、日々を平凡に過ごしている。仲のいい女友達は2人いて、彼女たちとたまに食事をするのが楽しみの女性である。

ただ、主人公には特殊な能力がある。祖母から受け継いだもので、その能力によって男女を結びつけることができるのである。アイスマンというあだ名はその能力に由来する。過去に3回その能力を使ってきた。いずれも驚くほど効き目があった。だが、そのたびに悪夢に苦しみ、何日も寝込む体験をした。だから、あまり使いたくない能力でもある。

そんな主人公の前に高校時代に憧れていた男性が現れる。でも彼女には病気の母がいる。その上、親友の一人がその男性に恋をする。はたして主人公はどうするのか、そしてどんなラストを迎えるのか。

この作品はとてもよくできた作りで、細部の一つ一つがラストに向かって少しずつ収束していくような感覚を受ける。読者はこの作品を読んで、スリリングな快感を味わうことだろう。ただラストは、物語の流れの収束点から飛躍した印象を受ける。これはいい意味で読者を裏切りたいという作者の意欲の表れなのだろうか。

解説は8月の明治座公演『つばき、時跳び』の演出をした成井豊(なるい・ゆたか)である。氏は「この本、芝居にしたい!」というタイトルで熱い解説を書いている。わたしもこの本が芝居になったら見に行きたいものである(真野恵里菜にも出ていてもらいたい(^^ゞ)。氏は『クロノス・ジョウンターの伝説』のシリーズを4作も芝居にしている。次の梶尾作品はこのシリーズのどれかを読むことになるだろう。

アイスマン。ゆれる (光文社文庫)

2010.10.16

いしかわじゅん著『ファイアーキング・カフェ』(光文社)を読む

10月16日(土)

漫画家いしかわじゅんの書いた短編小説の連作集。いしかわじゅんは多才な人で、漫画だけでなく評論やエッセイ、小説などの著作も多いが、あくまでも漫画家である。

とはいえ、わたしは氏の小説を読んだのはこの本が初めてである。舞台は沖縄の那覇、全部で6つの短編が収められている。表題は最初の短編のタイトルであり、「ファイアーキング」とは、表紙にもあるアメリカの陶器のブランドのことである。

主人公はそれぞれ異なる。男であることもあり女であることもある。しかしすべて本土出身の人間である。この6人はいずれも本土で何らかの形で居場所をなくし沖縄に流れてくる。しかし沖縄でも落ち着かない気持ちを抱えて生きている。彼らはある短編では主人公であり、他の短編ではわき役や背景のような人物として現れる。

この連作を通じて見えてくるのは、滞在数年くらいの本土の人間の目から見た那覇の風土であり沖縄の人間のありようである。そこはパラダイスでもなければ地獄でもない。そこでも人間が生きているというだけのことだ。ただ、最後の「新しい場所」では、沖縄の女が本土に旅立ち、本土の女が沖縄で居場所を見つける決意をする。居場所を見つけるとは、そこにいる決意をすることなのだ。

とまとめようものなら、いしかわじゅんに「ちがうよ」と一蹴されそうではあるが。

ファイアーキング・カフェ

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