廣野由美子著『批評理論入門 「フランケンシュタイン」解剖講義』(中公新書1790)を読む
6月2日(水)
今年の1月30日に当ブログにメアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』の感想を載せたが、この本はその作品を様々な文芸批評の理論によって解剖してみせたものである。著者としては最初『新・小説神髄』にするつもりであったのに編集者によって改題されたとのことだが、本の中味を見る限りは改題されたタイトルの方が中味をよく示している。文芸批評の理論についての本はいくつもあるが、一つの作品を使って説明した本は珍しい。著者の腕もいいのだろうが、実に手際よく作品を解剖してみせている。
この本は大きくは「Ⅰ小説技法篇」と「Ⅱ批評理論篇」に分かれている。小説技法篇では、この『フランケンシュタイン』という作品で使われている技法についてていねいに追って行くことで、小説とはどのような技法で成立しているかが示される。批評理論篇では、伝統的な批評理論から最新の批評理論まで網羅的に説明しながら、実際に作品にどう適用できるかを示している。
この本を一冊読むことで、小説をめぐる技法と批評についての広い視野を得ることができる。個人的には、完全に過去のものと思われたマルクス主義批評でも、使いようによっては未だに有効であることがわかったのはちょっとした驚きだった。旧来の文学的な技法や理論は新しい技法や理論に一旦は絶対的に否定される。しかし本当は文学的な営みに絶対はなく、技法や理論においても相対的なものなのである。
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