映画『インビクタス 負けざる者たち』を観る
3月5日(金)
3月1日の映画の日に、新宿ピカデリーで『インビクタス』を観た。監督は名優でもあるクリント・イーストウッドで近年『硫黄島からの手紙』など名作を作ることでも評価が高い。この作品もネットでの評判がよかったので観に行く気になった。
舞台は1995年の南アフリカ共和国、悪名高いアパルトヘイトはすでに撤廃されていたが、白人と黒人の確執は続いていた。大統領はネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)。南アフリカでは黒人初の大統領である。彼は政治犯として27年間獄中にいたが、1990年の2月に釈放され、それから4年後に大統領に就任した。
マンデラは南アフリカの真の統合のためには、白人と黒人の和解が必要と考える。そのために考え出したことが、ラグビーを利用することであった。南アフリカのラグビーチームは長らく国際舞台から離れていたが、白人たちの誇りであった。95年にはそのW杯が南アフリカ主催で行われることになっていた。だがその実力はとてもW杯で戦えるレベルにはなかった。
一方、黒人にとって、ラグビーは白人のスポーツでむしろ憎むべき対象であった。そこでマンデラは、黒人を説得して、全国民でW杯を盛り上げるようにさまざまに働きかける。ナショナルチームのキャプテン(マット・デイモン)を大統領執務室に呼んで激励したり、黒人のスラム街の子供たちのために、選手たちによるラグビー教室を開かせたりする。その結果、W杯の頃には国中がラグビーで盛り上がることになる。
タイトルのインビクタスとは不屈という意味のラテン語であり、マンデラは獄中でインビクタスという詩を心の支えにしていた。その詩は映画の中でたびたび繰り返され、マンデラの不屈の意志が強調されている。
全体として、とてもまっとうな映画の作り方で、ちゃんとした映画を観たという満足感が残る。大統領の警備スタッフを物語の中心に据え、その黒人と白人メンバーたちの関係の変化を描いたところにもうまさを感じる。ただ、いくつかの疑問も残る。例えばなぜこのラグビーチームはわずか1年間でこんなに強くなれたのか。マンデラと家族はなぜ別れているのか。過労で安静が必要な時になぜ台湾訪問だけはキャンセルしなかったのか。映画を見るだけではよくわからない。やはりある程度はマンデラや南アフリカについての知識がないといけないようだ。それにある程度はラグビーのことも勉強しておいた方がいいかもしれない。
わたしにはナショナリズム的な盛り上がりには反射的に引いてしまう傾向があり、この映画の盛り上がりにもついていけなかったが、サッカーのW杯などで盛り上がれる人にはいい映画と言えるだろう。
ただマンデラの自伝『Long Walk to Freedom』が永らく本棚に眠ったままで、これはやっぱり読むしかないなと改めて自分の宿題にできたのは、個人的には収穫だった。それに今後reconciliation(和解)という単語を見るたびにこの作品を思い出すことになるのはまちがいない。
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