平野啓一郎著『小説の読み方 感想が語れる着眼点』(PHP新書588)を読む
3月24日(水)
昨年の10月20日にこのブログでも紹介した『本の読み方 スロー・リーディングの実践』(PHP新書)の続編。今回は小説に的を絞り、基礎編ではブログなどで小説の感想が語れるような着眼点をあげ、実践編で実際の小説を分析してみせている。
著者は小説をその字のごとく小さく説くものと見る。小説にはプロットという大きな流れとその流れを作り出す一つ一つの文という小さな流れがある。その文は主語と述語からできている。作家によって主語が選ばれさらに述語が選ばれる。その述語は主語そのものを充てんさせる機能を持つものもあれば、プロットを前進させる機能を持つものもある。そのため各々の文の作り出す流れは、プロットを前進させるだけでなく逆向きに流れることもある。だがその全体は最終的な述語へ向かって流れる。
取り上げている小説は、ポール・オースターの『幽霊』から美嘉の『恋空』までと守備範囲が広い。だが、著者はどの作品に対しても、基礎編で述べた理論的枠組みを使って、同じような姿勢で分析してみせる。その冷静で偏りのない態度に好感が持てる。
著者独特の知的スノビズムも時折感じられる。これは自身の教養の深さをどこかに示しておきたいという欲求がどこかにあるからだろう。ただ、これはこれで小説の読み方としてはありだと思う。小説に限らず芸術表現には人を選ぶところがあるからだ。
この本を読んでブログに感想が書けるようになるのかと問われたら、それも人によりけりと言うしかない。少なくともわたしには、こんなにていねいな感想をブログに書く気力は持てそうもないけれど、ただ、またいろいろな小説を読んでみたくなったのは確かである。
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