春日太一著『天才 勝新太郎』(文春新書735)を読む
3月10日(水)
わたしがここ2年でおもしろいと思ったノンフィクションは、山城新伍の『おこりんぼ さびしんぼ』(廣済堂文庫)と城戸久枝の『あの戦争から遠く離れて』(情報センター出版局)である。この本はそれに匹敵するおもしろさであった。そのうち山城新伍の本は若山富三郎と勝新太郎の破格のエピソードを記したものであるから、勝新太郎に関わる本がわたしの中のノンフィクションベスト3のうち2つも入っていることになる。
おもしろいと言っても、面白おかしいわけではない。内容は勝新太郎の破天荒で苦悩に満ちた人生を描いたものである。だが、著者は、それを勝のスタッフだった人間たちから濃密に取材し、数多くの勝の作品を自ら観た上で書いている。その入れ込み方がただ事ではない。おそらく著者は、ある部分では勝新太郎自身になり切って文章を書いている。そしてそのことに読んでいる方も不自然さを感じない。勝は本当にこう感じていたのだろうなと思われるのである。
似たような本としては小林信彦の『天才伝説 横山やすし』(文春文庫)を思い出す。だが、あの本が小説家である小林と漫才師の横山の個人的なエピソードに上方芸能論を加えたものだったのに対して、この本には著者と勝との個人的なエピソードはない。著者自身がまだ30代前半と若く、勝と直接出会っていないからである。だが、著者の強い思いが、そのどこか欠落した感触を乗り越えて、勝新太郎の魅力を後の世代にしっかりと伝えたことは確かだろう。
著者の処女作に『時代劇は死なず―京都太秦の「職人」たち』(集英社新書)がある。いずれぜひ読んでみたいものである。
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