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メアリ・シェリー著 森下弓子訳『フランケンシュタイン』(創元推理文庫)を読む

1月30日(土)

この作品の初版は1818年に出版された。著者はイギリスの女性で当時21歳であった。その頃日本はまだ江戸時代の後期、世界ではフランス革命が1792年に起こり、その反動でナポレオンによりフランスで帝政が敷かれ、ヨーロッパ全土を巻き込んだナポレオン戦争が1812年に起こっていた。これほど有名な怪物が、若い女性によってこんな古い時代に創造されていたことにまず驚いた。

フランケンシュタインというとまず巨大で醜い怪物が頭に浮かぶ。だが正確にはその怪物を作った男の科学者の名前である。何かの映画に出てくるような年老いたマッド・サイエンティストでもなくて、この作品では天才的ではあるがただの大学生である。

作品としては今読むとお粗末な印象を受ける。凝った作りではある。話はイギリス人の冒険家の姉への手紙で始まる。その手紙の中にスイス人のフランケンシュタインが現れ、弟が聞いた話として彼の物語が始まる。その話の途中から怪物の一人語りも始まる。姉(=読者)にとっては、弟の手紙によってフランケンシュタインによる怪物の一人語りを読まされるわけで、すべてが伝聞であり伝聞の伝聞でもあるのだ。

この作品は、小説としてのできはいいとは言えない。それでも、不思議なことに、この作品は後世の批評家にSFの起源とされ、後の有名なSF作家に大きな影響を及ぼし、数多くの劇や映画が作られることになる。その辺りの経緯については巻末の新藤純子氏の解説にくわしい。文庫本の解説は読むだけ無駄なものも多いのだが、この解説は必読である。

この作品のテーマは、アンドロイドを描いた映画『ブレードランナー』(1982年)にまで引き継がれ、そしていま人間は、ついに自らの手で新しい命を作り出せる技術を手に入れた。空想に過ぎなかったフランケンシュタインの苦悩が現実のものになりつつあるのである。昨年の6月22日にこのブログで紹介した『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』(平凡社新書)でもこの作品のテーマが現実のテーマとなったことが示唆されている。そういう意味では、このできの悪い作品の生命の火は、まるであの巨大で醜い怪物のように未だに燃え続けていると言えるだろう。

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