雨宮処凛・飯田泰之著『脱貧困の経済学』(自由国民社)を読む
10月2日(金)
日本は90年代のバブルの崩壊以来、長い不況に苦しんできた。そのため会社ではリストラと言う名の正社員のクビ切りが盛んに行われ、多くの人が派遣やフリーターのような不安定な立場で働くようになった。00年代に入り景気はやや回復してきたものの、その利益の大部分は会社に吸収され、雇用の改善はまだなされていなかった。
そこへ昨年9月からのアメリカ発の不況である。会社の派遣切りが突然始まった。派遣で仕事をしてきた人たちの中にはクビを切られても行くところがなく、ホームレスになるしかない人たちも出てきた。昨年末に日比谷公園に突如現れた派遣村のニュースはまだ記憶に新しい。
雨宮処凛はそういう人たちをプレカリアート(不安定なプロレタリアート)と呼び、特に自分たちの世代が一番割を食っているとして、その世代をロスト・ジェネレーション(失われた世代)略してロスジェネと言っている。彼女は作家であると同時にそういう自分たちの世代の問題を引き受けて、政治運動にも主体的に関わり、ロスジェネの脱貧困のための提言を続けている。
飯田は雨宮と同じ1975年生まれの経済学者である。今までの政府の経済政策には批判的で、自らの処方箋を積極的に提示している。
この本は、主に対談の形式で、雨宮の疑問や提言に飯田が経済学の立場で答えたものである。飯田の処方箋は、大まかには経済成長毎年2%を維持すること、そのためにインフレを促進する政策を実行すること、金持ちからもっと税金を取るために累進課税の度合いを強めること、その後に収入に応じたベイシック・インカム型の再分配を行うことである。
本を読む限りでは、飯田の説明は実に理に適っており、このとおりに実行されれば日本の社会は今よりずっと住みやすくなるはずである。では、なぜ日本の政府はそうしないのか。やっぱり今までの与党の自民党が金持ちと年寄りの利益を代表する政党だったからだろうか。それとも飯田の提言にはどこか穴があるのだろうか。たとえば飯田の理論では1ドルは120円くらいが望ましいのだが、今の民主党の政府でさえそうは考えていないようだ。それどころか円高の現状を追認し、輸出依存をやめて内需拡大をなどと言い始めている。
とはいえ飯田の提言は、雨宮のような政治運動の理論的な支えになりうる。プレカリアートの利益を代弁する政党ができたら、そのマニフェストとして、飯田の提言を入れても違和感はない。そうなれば将来はロスジェネが日本を変える中心の世代になるかもしれない。ただ、今は将来のことよりも今年の冬を何とか越せるような緊急の対策が必要だけれども。
(9月30日読了)
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