平川克美著『ビジネスに「戦略」なんていらない』(洋泉社新書y)を読む
3月16日(月)
昨今サラリーマンによく読まれているビジネス書は戦略論流行りである。著者はそのような、ビジネスが戦争のアナロジーで語られる現状に違和感を抱き、ビジネスの本質論としてこの本を書いた。ただ、タイトルと違って、著者はビジネス上の戦略を否定しているわけではない。戦略はビジネスの本質ではないと語っているのだ。
ビジネスとはあくまでも商品と貨幣の交換の上に成り立つ、著者の用語によると「一回半ひねりのコミュニケーション」である。ビジネスには、その中に誰にでも見える部分と容易には見えない部分を持つ。その見えない部分が、実はビジネスという行為を支えている。投資家の言葉や戦争のアナロジーだけでは、見えない部分を語ることはできない。
ビジネスの世界で実際に会社を立ち上げ活躍してきた人の言葉だけに、その言葉には重みがある。また、ビジネスの世界を語るのに、現代思想を援用しているところが新鮮である。ただ、この著者の言葉に耳を傾けようとするのは、この人が成功者だからという点があるのも否定できない。そういう点では、この本も成功した経営者の語るビジネス物語の一つであり、そこには何かが抜け落ちているような感触がある。
この本は、3月6日に紹介した「内田樹の研究室」というサイトで、著者が連載していた文章が編集者の目に留まって実現したものである。とは言え中身のほとんどは書き下ろしである。最後には内田氏とのメール交換も載っており、それ自体がまた刺激的なやりとりになっている。
(3月14日読了)
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