烏賀陽弘道著『Jポップとは何か―巨大化する音楽産業―』(岩波新書)を読む
2月17日(火)
Jポップという名称はJ-WAVEという1FM局において1988年に生まれた。その後Jポップは90年代に隆盛を極め、CDのミリオンセラーが続出する。21世紀に入ってCDの売り上げこそ落ちたものの、携帯電話の着うたやインターネットを通じての音楽配信において、未だに大きな売り上げを誇っている。本書では、Jポップがなぜこれほど隆盛しているのかを主に日本の音楽産業や日本社会・文化の分析を通じて描き出そうとしている。
著者は元朝日新聞社の記者で、1992年にコロンビア大学の大学院に留学し、国際安全保障論で修士を取っている。2003年からフリーのジャーナリストに転身した。そんな著者がなぜJポップを取り上げたのだろうか。
この本の種になったのは著者の留学経験である。著者は、留学先ではほとんど聴くことのなかったJポップが、帰国後に国内で隆盛を極めていることに驚く。Jポップの日本での受容のされ方と海外での徹底した無関心との落差をどう捉えたらいいのかを考えるうちに、これは日本の社会や文化のあり方に共通のものであることに気づく。
本書ができたのはそれから約10年後のことである。Jポップを通じての日本社会・文化論は他に類書がなかったこともあり、著者は悪戦苦闘して書き上げたようである。そのためか、ややスマートさに欠け、力技の部分があることは否定できない。でも、こういう本こそが真に独創的な本なのだ。
個人的には、Jポップの受容のされ方が、欧米と肩を並べたいという日本人の願望に支えられているという分析がツボだった。ヨーロッパで活躍するサッカー選手、アメリカで活躍するメジャーリーガー、フィギュアスケートの浅田真央、ゴルフの石川遼の人気を支えるものもこうした願望なのであろう。Jポップに関しては、あの宇多田ヒカルでさえアメリカ進出に失敗したように、単なるファンタジー基づく人気に過ぎないのだけれど。
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