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梁石日著『タクシードライバー日誌』(ちくま文庫)を読む

10月7日(火)

今年の8月30日に同じ著者の『タクシー狂躁曲』を紹介したが、前の本が小説の短編集だったのに対して、この本はタクシー業務に関する自身の体験を記したルポルタージュになっている。ルポライターのルポと違って、自身が10年間勤務しての体験の重みがあるだけに、迫力ある記述が続く。タクシー業界の前近代性、その中でのタクシー業務の過酷さ、また職業としての世間的な差別などの事実が具体的な体験を元に語られてゆく。

また、著者自身も人を轢いてしまって大怪我を負わせたり、大型トラックにぶつけられて死ぬ寸前の重症を負ったりしてしまう。そういった事故の加害者、被害者としての体験も生々しい。

ただ、タクシー業務の厳しさが語られる一方で、著者自身が楽天的な性格なのか、何だかのどかな業界だなという印象も受ける。著者が二日酔いやさぼりのため無断で休んでも特にとがめられることもないし、けっこう気ままな仕事っぷりなのだ。これは単行本の初版が1984年でもう24年前のことであることも関係しているのかもしれない。

その間に日本はバブルとその後の長い不況を経験する。リストラと派遣社員の採用を経て、日本の会社にもう当時ののどかさはないように、タクシー業界にも当時ののどかさはないかもしれない。しかし、タクシー業界と他の業界の仕事の厳しさの差は、当時よりも縮まっているような気がする。そうだとすれば、タクシードライバーとして生きるのも悪くはないなと、著者のメッセージとは反対に、のんきなことを考えた。

(10月5日読了)

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