高田里惠子著『グロテスクな教養』(ちくま新書)を読む
10月1日(水)
近代日本の教養と教養主義のあり様を分析した本。はじめにで著者は、教養や教養主義についての発言は、特に反論する程ではないにせよ、どこかすっきりしない感じが残ると言っている。実は、この本自体がそういう本なのだ。
個々の分析は意地悪なくらい的確である。実にさまざまな観点から教養や教養主義を分析して見せている。ところが読後感はもやもやしたままである。著者の本を読む限り、日本の教養とは、受験戦争の勝者という特権エリートの男の子のみが享受できるものに過ぎない。それは、大正教養主義やマルクス主義を受容した学生や特攻の学徒でも、戦後の東大生の原口統三や日比谷高校生の庄司薫くんでも同じことである。そしてそうした教養および教養主義は、ニューアカ・ブームを最後に終焉してしまった。
ところが著者は最後に、教養や教養主義は復権すべきだと主張する。愛すべき教養主義をこき下ろしたのは、そこから始めないと復権も始まらないからだと言う。でも、その具体的な道筋は示されない。これは著者自身が東大卒のエリートであることから来る限界なのか、それともこのグロテスクな混沌の中から教養の復権の種が見出せるものなのか。勝手にしたらいいといういささか意地悪な感想が心に浮かんできた。
(9月30日読了)
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