梶井照陰著『限界集落』(フォイル)を読む
9月9日(火)
限界集落とは、本書によれば、65歳以上の高齢者が集落人口の50%を超え、独居老人世帯が増加し、このため集落の共同活動機能が低下し、社会的共同生活の維持が困難な状態にある集落をいう。大野晃著『山村環境社会学序説』を参考にしたとある。
プロフィールによれば、著者は1976年生まれの佐渡ヶ島出身の僧侶である。16歳の頃から写真を撮り始め、1999年に高野山大学密教学科を卒業した後は、世界各国を訪ねて積極的に取材をし、2004年には故郷の佐渡の波を撮った写真集『NAMI』を発表し、2005年には日本写真協会賞新人賞を受賞している。現在は佐渡ヶ島で真言宗の僧侶をするかたわら、写真家としての活動を続けている
この本は、日本各地の限界集落を取材したルポルタージュである。ただ文章と写真が交互に並んでおり、写真の量が多い。また、写真が何を写しているかを捕捉する文章はなく、本文との緩やかなつながりの中から推測するだけである。そういう意味では、この本は限界集落を素材にした写真集とも言える。
文章はさすが僧侶と言うべきか余計な自己顕示臭がなく、透明なフィルターを通して風景を見ているような感じである。言わば、写真のような文章なのだ。著者の感情表現は極力抑えられ、ただ、事実が淡々と述べられてゆく。しかしその事実の選択の中に、この著者の穏やかだが芯のある自己が浮かび上がってくる。
今後10年以内に423の集落が消滅する可能性があるという。著者の撮った限界集落の風景や年寄りの姿が、やがては写真集の中だけのことになる日が来るのだろうか。著者自身は、このままでいいのだろうかと静かに私たちに語りかけている。
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