野間正二著『『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の謎をとく』(創元社)を読む
8月15日(金)
英語で一度、野崎訳で一度読んだことがあって、それをどう読み解いているのかに興味を持って読み始めた。巷によく見られる文芸評論と違って難しいことは書いていない。でも、わたしにとってはかえってためになる本であった。多くの読者が引っ掛かるであろう謎が説得力を持って解かれていく。小説を読み込むことの楽しさが伝わってくる。
読者の多くは思春期にこの小説を読み、思春期の主人公に感情移入する。しかしこの本は主人公をつき離して語る。いわば大人の視線からの読解である。そして、そう読んでもこの小説は実におもしろい。
当然ながらわたしの読み方の浅さもはっきりする。例えばわたしはこの小説を漠然と1950年代前半の物語と思っていたが、この本では1949年であることが明らかになる。また、主人公は精神病院に入院しているものと思っていたが、この本では明らかにされない。むしろ主人公の不安定ながらも健全な心の動きが語られ、そうではない可能性のほうが高まる。
そして決定的なのは、主人公のライ麦畑のキャッチャーになりたいという夢が元々思いつきにすぎず、しかも最後には、その不可能性に自分で気づいているという指摘である。この小説は魂の彷徨の果てに主人公が成長する物語なのだ。わたしは消耗しきった主人公が最後には精神崩壊する物語と思っていたので、この読みの落差は衝撃だった。
これから他の小説を読む時にも、この本の読み方は頭から離れないだろう。いい本を読ませてもらった。惜しいのは誤植が目立つことで、版を重ねる中で修正してもらいたい点である。
(8月13日読了)
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