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2008.06.29

須原一秀著『<現代の全体>をとらえる一番大きくて簡単な枠組』(新評論)を読む

6月29日(日)

あとがきによれば「本書は哲学研究者が一般社会と社会学と政治学のために書いた『大衆社会論』ないし『社会思想』ジャンルの本である」。

哲学研究者でありながら著者は、学問としての哲学の死亡を宣言する。そして古代ギリシアの民主制社会と現代の民主主義社会を比較して、古代ギリシア社会を貴族的英雄的肯定主義、現代社会を大衆的有名人的肯定主義と見なす。古代ギリシア社会の神話の神、貴族、英雄には、現代大衆社会ではスター、有名人、チャンピオンが対応している。

一部の知識人は現代社会を否定的に見る。そのために哲学という否定主義的な道具を用いる。だがその知識人でさえ体はどっぷりと現代大衆社会に浸かっている。哲学は死んでおり、本当はもはやこの現実を肯定するしか術はないのだ。

こういう何もかも肯定される社会は実は犯罪も堕落も起こりやすい社会でもある。しかしある程度の犯罪も堕落も許容しつつそれらに個々に対応していく社会こそが、一番ましな社会である。哲学的な真理や正義を振りかざす社会や国がどうなっているかは歴史や現実が示している。

TVや新聞のニュースや評論家の論調は、常に否定主義的である。その方が賢くも見える。その中でここまで社会を肯定的に見る思想は珍しい。わたしたちは、答えの見つからない先の見えない閉塞した時代に生きているのではない、先の見えないフロンティアの中で生きているのである。ただそう主張する著者は、自らは死を選んだ。そのせいもあってか、読んであまり明るい気分にはなれなかった。著者自身は屈折した肯定主義者だったのだろうか。

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