中島義道著『悪について』(岩波新書) を読む
5月17日(土)
哲学者でありカント研究家でもある著者が、カント倫理学の本質について悪に関する考察の側面から説明したもの。カント倫理学と言うと、道徳法則への尊敬とか自律とか定言命法という用語は何となく知っていたが、まさかここまで人間が悪から逃れられない存在として描かれているとは知らなかった。
カントの場合はその救いのなさを神への信仰とつなげていく発想があるらしいが、著者はその部分は理解できないとして、人間の根本悪についての思惟の部分までで説明を終えてしまう。終えてしまうところに著者の思想の独自性がある。
中島の著作については今まで3冊紹介したけど、4冊目のこの本が一番自己顕示の臭みが少なくて素直に読めた。カント風に言うと『「人間嫌い」のルール』が実践理性による記述だとすると、この『悪について』は純粋理性による記述と言えるのかもしれない。まあ半分は冗談だけど。
(5月17日読了)
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