柳原和子著『がん患者学Ⅲ がん生還者たち―病から生まれ出づるもの』(中公文庫)を読む
3月7日(金)
文庫版の『がん患者学』の最終巻だが、単行本では副題をタイトルに出版された。NHK教育で放映されたETV2001「シリーズがん患者に学ぶ」を土台にしてこの本は生まれた。そのためかそれまでの巻とはやや趣が変わり、がんという病を通じて見えてくるこの世の成り立ちというもの、その中で生きるとは、死ぬとはどういうことなのかが主題になっている。読者として知り合った2人の女性の闘病と死を描いた後、女性がん患者へのアンケート結果のまとめ、アメリカのがん患者たちの活動、メキシコでの代替医療の現場の取材、医師レイチェル・ナオミ・リーメンへのインタビューなど取材対象も範囲も大きく広がっている。
この時期は柳原さんが精力的に仕事を再開した頃である。がんは完全に消滅したと思われており、体調も回復して、不安は残っているにせよ、かつての生きるか死ぬかといった切迫感はなくなっている。自身を「がん生還者」と規定しており、ある意味、ここでがんへの区切りをつけて、新たな仕事へと向かうための総括とも言える作品である。
しかし、残念な話だけど、がん患者でなくなった柳原さんの仕事にはあまり興味が持てない。彼女がこだわっていることは、大半の読者にとってはどうでもいいことなのだ。
柳原さんはその後がんを再発し、再発日記を雑誌に発表する。それは以前に紹介した『百万回の永訣』としてまとめられた。そしてその本こそが、柳原さんの過去最高の作品になるのである。
(3月7日読了)
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