小田実著『中流の復興』(NHK生活人新書)を読む
3月29日(土)
昨年7月にガンで亡くなった作家・小田実の遺言のような本。この本が生前最後の新書となった。どこかで連続講座でも開いていたのだろうか、講演風の文章で、参加者らしい韓国人たちに呼びかける言葉も多い。
戦争を起こさない国としての日本。そのためには憲法9条を守る。多様な価値観を持った人が共生するサラダ社会を作る。鳥瞰図で地上を見るのでなく虫の視線で空を見よ。市民自らが政策を作る。間接民主主義だけでなく直接民主主義を実行して初めて民主主義。デモをしよう。ビラをまこう。皆が中流の生活を送れるのがいい社会。格差社会はよくない。教育に競争原理は必要ない。日本人は女々しい民族。刀を差さないで女々しいままに生きよ。文学はギリシア時代から権力者を笑いのめすためにあるなどなど。何となく社民党の主張に近いような気もするけど、やはりこの人独特の豊かでユーモラスな、聞いていて楽しくなれる世界観が展開されている。
小田さんは自身の死をどのように捉えていたのだろうか。本の中では個人的な事情で運命として受け入れると述べている。末期ガンとわかってわずか3ヵ月後に亡くなった。死は個人的なことでもっと大切なことが世の中にはあると言いたかったのだろうか。
最後に、911以後のフィリピンで反政府運動に対して反テロの名目で行われた激しい弾圧について、恒久民族民衆法廷という民間の国際法廷が下した判決文が、資料として載せられている。小田さんはこの法廷にJury(審判員)として参加した。こういう判決は今の日本の社会ではほとんど注目されないだろう。生前最後の新書に、不釣合いなくらい長々とこの判決文を載せたことに、小田さんの「伝われ!」という強い遺志が込められている。
(3月29日読了)
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» 小田実が考えて来たこと [試稿錯誤]
Makoto Oda 昨日、本の整理をするつもりが、ぽろりと出て来た小田実『激動の世界で私が考えて来たこと』(1996年、近代文藝社)に読みふけってしまった。一度読んだはずの本だが。 この本は小田実が89~95年にわたって書いた小文がおさまっている。530頁の本だ。この時期、小田実は 95年『ベ平連 回顧録でない回顧』 (月刊誌世界に連載したモノをまとめた) 96年『被災の思想 難死の思想』 という大著(700頁前後)を立て続けに出している。95年初頭、小田実自身... [続きを読む]
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