村瀬学著『未形の子どもへ 人生四苦八苦から』(大和書房)を読む
1月10日(木)
遅れのある子どもを保育する施設で長年勤務し、同時に評論活動も続けてきた著者の80年代の仕事をまとめたもの。この時期に、専門職から事務職に回されることになったことを機に教育の仕事を辞め、これ以降は評論活動に専念することになる。この本では、主に人生論、家族論、子ども論が収められている。
氏の文章にはまると、障害児教育の専門家としての現場の体験と吉本隆明やキルケゴールなどの骨太の思想家から学んだ理論的な側面とが絶妙に縒りあって、独特の心地よい世界の空気感を味わえる。元々保育園や幼稚園のお母さんたちへ語りかける物言いなので、一つ一つの言葉はやさしい。でも、それでいて私たちの生きる現実の微細な襞の隙間のような場所にも言葉が届いていて、読むたびに納得させられる。
80年代の文章にも関わらず氏の評論に古びたところはなく、21世紀の今のわたしにも届いている。昨今の浅薄な教育論などこの本一冊で吹っ飛んでしまいそうである。実家の本棚に眠っていたのを一昨年に帰省した時に見つけ、持ち帰っていたままになっていた。こういう本を買うのはわたしだけだから確かに買ったのだろうが、その記憶すらない本である。ずいぶん読むのが遅くなってしまったが、今読んでよかったと心から思う。
(1月9日読了)
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