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リリー・フランキー『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(扶桑社)について

深く愛する母親の死ぬ様を克明に描いた本。そこに自分の生い立ちからの母との関わり、幼児期から離れて暮らす父との関わりを時系列で記述することにより、読者をも作者と同じ心情に巻き込むように作られている。東京タワーとは若き父の生きた東京、ボクの生きている東京、そして東京タワーのふもとの病院で死んだ母の死に様を象徴するものである。まちがいなく一級の作品で今年を代表する文学と言ってもよい。

ただ、こういう本は誰でも一生に一度は書けるような気もする。母の死はほとんどの人が経験するからである。そういう意味ではリリーさん、それ反則だよという気もしないではない。

それに気になる部分もあった。若い女性に対する態度が厳しいのだ。作者は若い女性の何人かを何かが欠落した人間として描いている。自分の箸の持ち方のおかしさを指摘する人、編集部のアルバイト、看護師など、まるで人間として失格とでも言いたげだ。本当のところは、それぞれの女性もそれぞれの生を生きているに過ぎないのに。

また、時々、抽象的な文章が出てくるのだが、どうもよくわからない。わたしも九州から上京し武蔵野の地に住み始めて13年になる。歳も2歳年上なだけで同世代だ。だから抽象的な文章の下にある気分くらい共有できそうな気もするのだがどうにもそれができない。東京に住んでいない者や世代のちがう者にはなおさらであろう。

それでも、この作品はある一点で成功している。それは母が入院先から外出して姉妹らとの一夜を過ごしている時に倒れ、病院に戻された場面である。ボクが母のベッドの傍らにいるときに母が目覚めて幻覚の中で家に戻ったと錯覚して、息子のボクに鯛の刺身となすの味噌汁があるから食べなさいと勧める。これは実話なのだろうが、このエピソードがなかったらこの作品は一級の作品にならなかっただろう。そういう意味では、この作品は母親の最高の贈り物とも言えるのかもしれない。もちろんその場面を描けたのは作者の才能ではあるのだけれど。

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